私的感想:本/映画

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『金子みすゞ童謡集』 金子みすゞ

2009-10-26 22:16:33 | NF・エッセイ・詩歌等

<見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ>(「星とたんぽぽ」)。
大正末期、彗星のごとく登場し、悲運の果てに若くして命を断った天才童謡詩人・金子みすヾ。彼女は子供たちの無垢な世界や、自然や宇宙の成り立ちをやさしい詩の言葉に託し、大切な心のありかを歌った。
いま、歴史の闇に散逸した幻の名詩が再び発掘者の手でテーマ別に編まれた。殺伐たる時代の中で、もう一度目に見えぬ「やさしさ」や「心」を見つめ直すために。
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)



久しぶりに金子みすずの詩を読み返したけれど、どの作品もすてきで、胸に響くものが多く、金子みすずの良さを改めて知らされた。
金子みすずの詩のどこが良いのかは、人それぞれいろいろ理由はあるのだろうけれど、僕は概ね3つの理由に集約されるかな、と思っている。


1つはオチのうまさだ。
金子みすずの詩はどれもラストの落とし方が絶妙で、笑ってしまうものもある。そしてときにラストではっとさせられるのだ。

たとえば『不思議』という詩。
ラストの連の「私は不思議でたまらない、/誰にきいても笑ってて、/あたりまえだ、ということが」に、読んでてドキッとしてしまう。
大人になるにつれ、常識で片づけることが多くなる分、こういう子どもの好奇心は読んでいても新鮮に映る。
それだけに胸に強く響く、そんなすばらしい詩だ。


金子みすずは『不思議』に限らず、子どもの視点を大事にしている詩人だ、と僕は思う。
金子みすずの描く子どもの情景や心情はなつかしく、そして同時にかわいらしい。そのため読んでいて微笑ましい気分になり、思わずにこにこしまう。
そしてその点こそ、みすずの魅力の2つ目の理由でもある。

『げんげ』なんかは、個人的にはかなり好きだ。
「春のつかいのするように」子どもが花を撒いているところなどは本当にすばらしく、胸にしみるよう。
それは実際に目に浮かぶようで、詩的でもあり、子どもらしくもあるところが特に良い、と思う。


そしてみすず作品の3つ目の魅力は、詩全体に漂う優しさによるところが大きい。
みすずの詩は、人間に(特に子どもに)対するやさしさにあふれているのだけど、それ以上に目を引くのが、人間以外のものに向ける暖かな視線だ。

その系列に連なるのが、たとえば『お魚』『大漁』『鯨法会』になるのだろう。
その詩の中でみすずは、人間に食べられるだけの魚たちに対しても、同情を示している。
その言葉からは、金子みすずの心根の優しさが伝わるようで、強く胸に迫る。


そのほかとしては、『御本と海』『鯨捕り』『もくせい』『芝草』『さくらの木』『落葉』『私と小鳥と鈴と』『露』『星とたんぽぽ』『水』『林檎畑』『繭と墓』『月のひかり』が気に入っている。

どの詩も金子みすずという詩人の優しい視線を示すものばかりだ。
小難しさはなく、老若男女を問わず親しめる作品が多い。そんな詩人はこの先もそう現われないかもしれない。
金子みすずはこの先も長く読まれて親しまれるべき、すばらしい童謡詩人である。そのことを本作を読んで、再確認した次第だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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